今回は、総合エレクトロニクスメーカーである日立製作所について、 有価証券報告書 をざっくりと読み解いていきたいと思います。
時価総額は、2022年10月現在6円、売上も2022年3月期では10兆円。
日経新聞による日本企業の時価総額上位ランキングで16位(2022/10/28現在)に入っていますね。
某TVクイズ番組のスポンサーとして「Inspire the Next」のブランドメッセージは子供でもフレーズは知るところでしょう。
では早速みていきましょう。
有価証券報告書はEDINETや、各社のHPから見ることができます。
日立製作所の有価証券報告書はこちらからどうぞ。
なお、総合電機のライバルといえばパナソニックですね。同社の企業分析はこちら。
企業分析してみよう!パナソニックホールディングス㈱【6752】-Panasonic 総合電機大手
創業は鉱山事業会社の工作課から
日立製作所は久原鉱業所の工作課にルーツがあります。当時は鉱山機械の修理がほとんどで、窓もない掘っ立て小屋でした。
創業者である小平浪平により1910年に誕生しています。社内の一部署に過ぎず、弱小部門だったようですね。小平氏自身も名家の出というわけでもなく、後ろだてもない状況です。
そのような社内の一部門が現在では多くの有力企業を有する一大企業集団となり、日本のインフラを支えているのですから、当時の逆風の中であきらめなかった創業メンバーの、日本に対する貢献は図りしれません。
Hitachi Origin Storyとして、HPに公開されていますので、ぜひ一読ください。
社内ベンチャーからスタートしているんですね。
企業人として刺激になります!(すごすぎて参考にならないですが・・)
事業内容は?
有価証券報告書(2022/3期)から、【事業の内容】をみると、日立グループは「IT」「エネルギー」「インダストリー」「モビリティ」「ライフ」の5つのセクターを成長分野として位置付け、関連するビジネスユニットを各セクターに配置しています。また、「オートモティブシステム」を上記の5つのセクターに並ぶ位置づけとし、上場子会社 グループである日立建機及び日立金属の2つのセグメント及びその他を加えた合計9セグメントにて、事業を展開しています。
※2022/4/1からはセクター区分を見直し、7セグメントに変更されています。
私たちも馴染み深い白物家電のほかにも、鉄道やエレベーター、建機、素材、システムから原発まで、本当に事業の幅が広いですね~
日立グループは、グループの事業活動が広範であるため、事業セクターに対して、自社のビジネスユニットを割り当てるという戦略上の整理をしています。
・・・ 2022年3月31日現在、当社及び関係会社1,140社(連結子会社853社、持分法適用会社287社)・・
グループ会社も多すぎて、すべてを理解するのは不可能ですね。
各セグメントで満遍なく売上がありますね。
1兆円以上売上のあるセグメントが4つもあります。
利益も各セグメントで大きな偏りなく稼いでいるようですね。エネルギーや日立金属は2022年は黒字転換しています。エネルギーは原価低減や固定費圧縮、日立金属は自動車向け製品等の市況回復によるものとされています。
なお、エリア別の売上高も見てみましょう。
日本で4割、海外6割ですか。
やっぱりこれだけの規模を維持しようとすると海外にでていかないといけないんですね~
日本は他のエリアに比べると成長率で見劣りするものの、売上規模はまだまだ存在感がありますね。
海外は純粋な成長に加え、事業買収などで、規模を拡大させています。
注記の「事業再編等」を見ると、毎年何らかの再編を行っていることがわかりますね。スピード感を感じます。
2022年3月期では日立金属、日立物流、日立建機の株式売却も進み、事業ポートフォリオもどんどん変わっていっています。
常に変化し、成長性のある分野へ資源を再配置していくことで、競争力を保っているということですね。中にいる人はついていくのが大変かもしれませんね。
ガバナンス体制について
日立では【コーポレート・ガバナンスの状況等】に記載のとおり、「監督と執行の分離」が徹底されています。
具体的には取締役会は執行の機関ではなく、経営の基本方針の決定と執行役の職務執行の監督機関であり、具体的な経営は執行役に委ねられています。
一般的には、取締役は、執行役も兼ねることが多く、その結果、社内取締役が多くなるケースが大半ですが、日立の場合は取締役12名のうち、9名が社外取締役で執行役を兼ねているのはたったの2名のみです。
先進的ですが、なかなか真似できる会社は多くなさそうですね。。
監督(取締役会)と執行(執行役)を分けることで、執行役は自身の意思決定について取締役会への説明責任を明確に負うことになり、透明性の高い経営が実現できます。
また大きな経営方針については多様な知見のある社外役員が客観的な目線で意思決定に関与するため、自己防衛のための保守的な経営にならず、思い切った経営が実現できているといえるでしょう。
研究開発活動が重要
総合電器メーカーであり、かつITを成長分野ととらえる同社にとっては研究開発により、いかに将来のビジネスの種を作っていくかが重要な課題の一つといえます。
3千億円も研究開発に回しているんですね~
やっぱり大きい会社は違いますね。
ただ同社の売上規模(10兆円)を考えると、資源配分としては多いとも言えないのではと思います。売上規模では劣るパナソニックは4千億円を研究開発に回しています。
また事業セグメントが広いことで、一つのセグメントに配分できる研究開発費も小さくなってしまっています。多ければよいというものではありませんが、優秀な人材は予算のあるところに移動していくので、長い目で見たときに差として表れていく可能性はありますね。
なるほど。金額ではなく、どれだけ配分しているかを見ないといけないんですね~
年収、平均勤続年数は?
有価証券報告書には【従業員の状況】を記載する項目があります。
平均年齢や勤続年数、給与なども開示されています。
平均年齢や勤続年数、給与は親会社の情報のみが開示されています。
グループ会社は含まれていません。
36万人もの人を雇用しているんですね!従業員の家族もいれたら、100万人くらいは日立村で生きているということですか。勤続年数も長くて、結果として平均年齢も高く感じます。
雇用を生み出すという意味では、社会への貢献度は高いとも言えます。
事業再編の活発なグループですから、将来のキャリアプランを立てる上ではただただ安定ということにはならないかもしれませんね。
また大企業ゆえに、社内の風通しの良さというのは気になるところです。
事業のリスクについて
最後に、日立製作所が考える「事業のリスク」についてみてみましょう。
有価証券報告書には【事業等のリスク】を記載する項目があります。
ここでは7つの分類で計27個のリスクが記載されています。
どこの会社でもありそうな一般的なリスクが並びますが、その中でも重要と考えられるのは「企業買収、合弁事業及び戦略的提携」のリスクでしょうか。以下は一部抜粋です。
”当グループは、各事業分野において、重要な新技術や新製品の設計・開発、製品・システムやサービスの補完・拡充、事業規模拡大による市場競争力の強化及び新たな地域や事業への進出のための拠点や顧客基盤の獲得等のため、他企業の買収、事業の合弁や外部パートナーとの戦略的提携に一定程度依存しています。このような施策は、事業遂行、技術、製品及び人事上の統合又は投資の回収が容易でないことから、本質的にリスクを伴っています。”
買収やアライアンスについては、本質的にリスクを伴う旨が記載されています。
また、事業を買う方のリスクに対して、事業を削る方「事業再構築」についても以下のようにリスクとして言及されています。
“事業再構築の取組みは、顧客又は従業員からの評価の低下等、予期せぬ結果をもたらす可能性もあり、また、過去に事業再構築に関連して有形固定資産や無形資産の減損、在庫の評価減、有形固定資産の処分及び有価証券の売却に関連する損失などが生じましたが、このような多額の費用が将来も発生する可能性があります。現在及び将来における事業再構築の取組みは、成功しない、又は当グループが現在期待している効果を得られず、当グループの事業、財政状態及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。”
買収も、整理・売却も、効果を出すのは簡単ではないということですね。
終わりに
日本の総合電器の中でも、日立グループはひときわ巨大で、生活インフラにも多くの場面で登場します。創業者の小平氏いわく”日本の技術力の発展が国内工業の発展に欠かせぬ”として、技術力を磨いた日立製作所は、海外企業の成長著しいなかで、再度その精神を試されているフェーズに入ったといえるかもしれません。
特に社会インフラを支える日立のような会社は、日本の経済安全保障においても重要な役割を担っていますよね。
引き続き、日本人が自慢できるような会社であってほしいと思います。
当記事が、多くの会社を知る一助になれば幸いです。
日進月歩。