今回は、ゼネコンの中でも特に規模の大きい「スーパーゼネコン」の一角を占める大林組について、 有価証券報告書 をざっくりと読み解いていきたいと思います。
時価総額は2022年11月現在で7千4百億円、売上も2022年3月期では1兆9千億円。土木・建設に少しでもかかわる機会のある方であれば、聞いたことのある会社ではないでしょうか。
では早速みていきましょう。
有価証券報告書 は EDINET や、各社のHPから見ることができます。
大林組の有価証券報告書はこちらからどうぞ。
以前みた鹿島建設とは規模も拮抗していますね~
ゼネコンに興味があれば、ぜひこちらもご覧ください。
企業分析してみよう!鹿島建設㈱【1812】-スーパーゼネコン-(事業内容/業績/給与/リスクなど)
スーパーゼネコンとは
ゼネコンなかでも特に規模が大きく売上が1兆円を超える以下の5社がスーパーゼネコンと言われています。
- 大林組
- 鹿島建設
- 清水建設
- 大成建設
- 竹中工務店
大成建設のみ、創業家からは経営が離れた非同族会社です。また竹中工務店はこの規模にして非上場会社であるという特徴があります。
歴史的に、ゼネコンは同族会社が多く、今回の大林組も代表権を持つ取締役会長として役員に名を連ねています。
ただし社長は創業家である大林家以外の方が就いており、大株主の状況をみても、大林家の持ち分は薄く、所有と経営の分離 は進んでいる様子です。
大株主の状況をみてみましょう。
創業家の大林剛郎氏が株主順位5位にいますね。
でも持ち分は2.36%だから支配しているとはいえないか・・
上場企業の株式を個人所有で引き継いでいくことはとても大変です。
会社が大きくなればなるほど、株式の価値が上がっていきますので、膨大な相続税がかかってしまいます。相続税のために株を売ったり、借金したりすることもあり得ます。
事業内容について
有価証券報告書から、【事業の内容】をみると、建設事業(国内建築事業、海外建築事業、国内土木事業及び海外土木事業)及び不動産事業の大きく5つに分かれていることがわかります。
コーポレートレポートをみていると、東京スカイツリーも大林組施工なんですね~。
他にも大林組が手掛けた実績はHPで見ることができました。多すぎて数えきれないですが・・
とりあえず、めちゃくちゃ大きい会社ということはわかりました!
では数字をみて、規模感をつかみましょうか。 セグメント 情報を見ていきます。
国内建築事業の売上が圧倒的に大きいですね~
・・でも赤字なんですか??
「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」をみると、業績の分析が書かれています。
”国内建築事業の大規模工事複数件において工事損失引当金を計上した” とありますね。
昨年実績では599億円の利益でしたので、一時的な減益といえそうです。
海外だと北米が牽引していますね。
多くのメーカーも同様ですが、米国が重要なマーケットになっていますね。
ただアジアには多くの拠点をもっており、今後の人口増加も見込まれるエリアをカバーしていることから、今後存在感を上げていくのではと思いますね。
オリンピック需要も終わり、国内事業がボリュームあるということですが、今後の業績見込みはどうなんでしょう?
有価証券報告書では受注高の状況も開示されているので、確認してみましょう。
コロナによる行動制限も緩和が進んでおり、足元の受注は堅調のようですね。受注残は前期比で1千億ほど積み増しており、まだまだ引き合いは強そうです。
それでも、中期経営計画では、投資投資の半分以上は海外開発事業ですし、グローバルな人材が重宝されそうですね。
研究開発活動について
土木・建築分野というと、ITテックのような急激な技術革新は起こりにくいものの、常に新しい工法が開発されており、人手不足や環境への配慮など、研究開発により差別化していくことが重要な課題の一つといえます。
大林組でも個別の研究開発実績について、なかなか細かく開示されていますね~
DXに力を入れているのも見て取れます。開示されているものから一つ、参考にをみてみましょう。
⑨リアルタイムに現場状況を反映する「4D施工管理支援システム」を開発
有価証券報告書 研究開発活動より
デジタル空間上に現場の人やモノといった状況をリアルタイムに反映させたデジタルツイン(※)を作成し、施工管理に活用する4D施工管理支援システムを開発した。
BIMの3Dモデルを基にした建築物の施工状況に、ドローンによって取得した点群データを重ね合わせることで現場の起伏などを再現する。そのデジタル空間をプラットフォームとし、IoT化した重機の位置や稼働状況、監視カメラの映像、作業員の出面情報など現場管理に必要な情報を連携させることで、リアルタイムに現場の状況を反映させることができる。
従来は現地で確認していた現場の稼働状況を一元的に「見える化」することで、施工管理に必要な情報の収集にかかる手間を削減するとともに、現地に行かなくても遠隔からの状況確認を可能とする。また、収集した情報を解析することで出来高の算定や施工計画のシミュレーションなどに活用することができる。
※デジタルツイン:実空間で収集したデータを基に、デジタル空間上に実空間のモノを再現する技術
確かにドローンや、IoTなど、テクノロジーを活用している感じがわかりますね。(細かいことはわからないけど・・)
年収、平均勤続年数は?
有価証券報告書には【従業員の状況】を記載する項目があります。
平均年齢や勤続年数、給与なども開示されています。
平均年齢や勤続年数、給与は親会社の情報のみが開示されています。
グループ会社は含まれていません。
売上規模からすると、従業員数が意外と少ない・・ですが、下請けという業界慣行のためでしょうか。(鹿島よりもさらに少ないです)
そうですね。建築・土木の特徴の一つとして、下請け文化があります。
元請はスーパーゼネコンで、統括管理は行うものの、実際の施工業者は一次請け、二次請けといった下請け業者を使うのが通常です。
ビジネスモデルの特性上、工事の需要には波があるため、人員を自社で確保すると固定費が吸収できず、経営が困難になるためです。
平均勤続年数も鹿島建設同様に長いですね。
そして給料もさすがの水準ですね。
(ちょっと鹿島のほうが高いかな?)
事業等のリスクについて
最後に、大林組が考える事業のリスクについてみてみましょう。
有価証券報告書には【事業等のリスク】を記載する項目があります。
ここでは計12個のリスクが記載されています。
その中でも重要と考えられるのは「(5) 建設資材価格及び労務単価の変動」でしょうか。
(5) 建設資材価格及び労務単価の変動
当社グループの主要事業である建設事業において、建設資材の急激な価格高騰や調達難または労務単価の高騰や技能労働者の不足が生じた場合、工事原価の上昇による利益率の低下や工期遅延による損害賠償のおそれなど、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性がある。
有価証券報告書 事業等のリスクより
当社グループは当該リスクへの対応策として、協力会社の施工余力の把握等に基づいて当社グループの将来の施工キャパシティを常に把握し、これに応じた受注水準の維持に努めている。また、早期購買を徹底するとともに、将来予測を含めた正確な原価把握を徹底し、適切な見積原価を算出することとしている。さらに、地域ごとに協力会社の互助組織である「林友会」を組織するなど、安定的なサプライチェーンの構築に取り組むとともに、省人化に向けた自動化技術・機械の開発等を進めている。
鹿島建設だと、建設業全体の作り手としてのリスクとして、なかなか深刻にとらえていたように思ったけど、大林組の場合はもうちょっとドライな書き方かな?
省人化、自動化と、協力会社のサポートが対応策ということですね。
確かに鹿島の場合は「職業としての魅力向上」といった業界の根本的な背景についても言及していましたね。
それぞれの色が出ているといえるかもしれません。
終わりに
土木・建築業は、ある意味人々の生活、安全を確保するためのインフラ製造業といえます。
業界大手の、いわゆるスーパーゼネコンでも、それぞれ色がありますね。
確かに、結構会社によって色があるかも・・
大林は純粋な建築、土木の技術を磨いている感じかな?
鹿島は都市開発全体を見ている感じがします。
昔は、ゼネコンというといわゆる土建屋さんということで、怖いイメージを持たれている方もいるかもしれません。今はかなりクリーンだと思いますね。
おっしゃるとおり、それぞれ色があり、強みや戦略も異なるので、比較する際には各社の資料をしっかり比べてみたいですね。
当記事が、多くの会社を知る一助になれば幸いです。
ではまた次回お会いしましょう。
日進月歩。